歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



何かが起こる予感。それが劇空間

 串田和美さんが演出するお芝居は、劇場の入り口を入った時から始まります。平成中村座では、観客が芝居を待つロビーで突然江戸の町人同士の喧嘩が始まったり…オンシアター自由劇場では、サーカスの団員たちが芸を披露していたり。劇場全体がざわざわしながら芝居になだれ込む心地よさ。それは江戸の芝居小屋を思わせます。

串田「シアターコクーンができて最初の柿落としで『A列車』(※8)という芝居を上演しました。この時なるべく客席をざわめかせたいと思って、役者にお客さんのふりをして犬を連れてきて係員ともめさせたり、3階席の人が帽子を落として1階の人に『拾ってー』と叫んだり」

富樫「お行儀よく『鑑賞します』という感じを壊したんですね」

串田「その頃から、歌舞伎のように芝居観ながらお弁当食べたり、お茶飲んだり、ハプニングが起こる劇場を創ろうとしていたのかもしれない」

富樫「歌舞伎の劇場を、劇空間としてどうご覧になりますか?」

串田「面白いですよねー。さっきも言ったけど、殿堂という感じと娯楽が背中合わせにくっついてる。お弁当も食べてよくて、お土産も売ってて、しかもご飯のおかずになるものも売ってるでしょ(笑)」

富樫「確かに(笑)」

串田「パンフレットとかTシャツとか、芝居の記念品じゃないんだよ!で、歌舞伎を観てお土産買って、それをおかずにしてご飯食べたりするのかな…(笑)。きっと、芝居のことを思い出して食べるのかもしれないけどね」

富樫「あの時、誰々の見得がこうだったわねえ…とか言って」

串田「そのね、劇空間とそこにいる観客の生活感までが一緒になっているところがすごい!って思うんですよ。不思議な面白さがあるんですよね」

富樫「串田さんにとって劇場とは?」

串田「いろんな感覚の人が一緒にいられる場所。で、ありたい。相反するいろんな感性や想いを持っている人が一緒にいて、一緒に楽しめる場所。皆が、俳優も観客もあっちこっち向いているのになぜかすごい輪が生まれちゃう。だから劇場はいいなって思う」

 教科書通りの感想を抱かなくたっていいし、隣の人と同じところで笑わなくたっていい。悪党に感情移入したっていい。
 既成観念をあえて解き放ち本能と向き合うこと、感客道であると思いました。

 
『A列車』(※8)
1989年9月、シアターコクーンの柿落としとして上演された串田和美作・演出による作品。出演は吉田日出子、笹野高史、小日向文世ほか。田舎の村を舞台に村長の娘と左官屋の青年との恋物語、勤め先から金を持ち逃げした元銀行員の逃亡劇とが交錯し多様な劇中歌に乗せて展開してゆく。

富樫佳織の感客道

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