歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 
 

来年はヨーロッパへ

 今年7月、2度目のニューヨーク公演で芝居に厳しいニューヨーカーをうならせた串田演出の歌舞伎。来年はヨーロッパでの上演が予定されています。

串田「ベルリンはもちろん、ルーマニアが面白そう。首都からちょっと離れた20万人くらいの街で開催されるフェスティバルに参加します」

富樫「ヨーロッパの観客の反応は、また楽しみですね」

串田「ドイツやルーマニアのように、政治によって生活の変化を強いられながらも一生懸命に演劇や音楽、アートを大切にして生きてきた人たち、それがなければ生きていけないって思ってる人たちと接することが自分に刺激をくれると思っています。彼らがどんな感想を持つか楽しみだね」

富樫「串田さんにとって観客とは?」

串田「一緒に創る人。感じるから、作品が始まる。観客が感じないと作品は始まらない。最後、完成するのを手伝ってくれる人」

富樫「串田さんにとって“型”とは?」

串田「型ねぇー。わからない!あのね、こうかなって思うことがもちろんあるけど、そんなもんじゃないだろっていつも思って、葛藤してます。芝居を観る上での解釈を広げるものでもあるだろうし、その中にはもっと違う深いものもある気がする。型っていうのは分からない、とあえてしておくことで作品が広がる感じがしてます」

富樫「歌舞伎は、余白がものすごくある演劇かなと今日芝居を観て感じました。だから観客がいろんな解釈をしたり、考える幅が広いのかなと」

串田「観ている人がいろんなことを考えるって、究極だよね。そういう意味では僕がいつか自分でやってみたいのは、『ものすごい高級な退屈』」

富樫「なんですかそれ!観たい」

串田「それは決して退屈で終わるわけじゃないんだけど、例えばある日、ただね、縁側で雲を眺めていたりして気づいたら2時間くらい経ってるような時間。でもその間、小さな頃のことを思い出したり、流れる雲を見ながらふっと将来の死ぬ時のこともよぎったり、ずーっと忘れていた人のことを思い出したり。禅なのかもしれないね。それでよかったと思える時間を創れたら最高ですね」

 人は常に、多様な意識を内包している。
 劇空間がもたらすのは、自分でも気がついていない感情や嗜好との出会い。劇場のシートに身をゆだね、芝居に触発され沸き上がる想いを逃さないこと。
 感じることで芝居を完成させる一員になれるのならば、感客の至福そこに極まれりと思いました。

 

プロフィール

串田和美

 1942年東京生まれ。1966年、劇団自由劇場(後にオンシアター自由劇場と改称)結成に参加。『上海バンスキング』『クスコ』など様々な舞台で活躍。1994年からは『東海道四谷怪談』『三人吉三』などコクーン歌舞伎の演出を手がけ、従来の脚本を活かした構成と斬新な演出で好評を博す。現在、まつもと市民芸術館の館長・芸術監督を務めるほか日本大学芸術学部教授も勤める。
 来年2月19日?3月2日まで東京・吉祥寺シアターでチェコ出身の作家ミラン・クンデラ作の『ジャックとその主人』を上演。3月6日?9日まつもと市民芸術館でも同公演が行われる。出演は白井晃、内田有紀、ほか。

 

富樫佳織

放送作家。NHKで歌舞伎中継などの番組ディレクターを経て、放送作家に。

「世界一受けたい授業」「世界ふしぎ発見!」「世界遺産」などを手がける。中村勘三郎襲名を追ったドキュメンタリーの構成など、歌舞伎に関する番組も多数担当。

富樫佳織の感客道

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