歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



『鎌倉三代記』(※1)
大坂夏の陣を脚色した作品。天明元年(1781年)に江戸肥前座で人形浄瑠璃として初演され、歌舞伎には寛政6年(1794年)に移された。鎌倉の北條時政と京の源頼家が争いを繰り広げていた時代。京方の武士・三浦之助義村は母親・長門が大病に倒れたと聞き戦場から帰ってくる。看病していたのは三浦之助を恋い慕う北條時政の娘である時姫。だが三浦之助は「敵方の娘は妻にはできない」と、時姫の気持ちをはねつける。
「丸本物(まるほんもの)」(※2)
転じて人形浄瑠璃を原作とした歌舞伎の義太夫狂言を指す。
 

『鎌倉三代記』と韓流…驚きの関係!

 お芝居の幕が開くのを待ちながら、久保さんは筋書を熟読します。内容をきちんと把握して臨みたい。その真剣な表情は本番前の打ち合わせをするキャスターそのものです。

久保「もしかして、開演前から解説が始まってます?」

 イヤホンガイドも入手済みです。真面目で几帳面な久保さんらしい、感劇前のひとこまです。

 ともに拝見したのは12月の歌舞伎座。昼の部最初の演目は義太夫狂言の名作『鎌倉三代記』(※1)です。時は鎌倉。北條家と源家の戦いが熾烈を極める中、敵同士で許嫁となった三浦之助と時姫の葛藤を軸に親子の絆や主への忠義といった日本人の心が描かれます。のっけから「丸本物(まるほんもの)」(※2)。いかがでした?

久保「ストーリーをきちんと追えたので、とても面白かったです!このお話、韓流ファンの女性にきっとウケると思いますよ!」

富樫「韓流!(笑)」

久保「この『鎌倉三代記』はまさしく、純愛、ですよね。恋を貫くために自分の家族を殺めるかと苦悩したり、今の生活ではありえないドラマが展開するのも韓流に通じていると思いました」

富樫「確かに…。そういう目線で観たことが全くなかったけど、言われてみれば確かに韓流。すごい!新鮮(笑)」

 主人公の三浦之助は源頼家の家臣。しかし彼の許嫁は敵である北條時政の娘・時姫です。互いに心を通じ合わせながらも政局に翻弄されるふたり。三浦之助は時姫に、妻になりたければ自分の父を討てと言います。

久保「今の時代、好きな人のために家族を捨てることすらあまりないでしょ?  このお話はもっとすごくて、家族を殺してまで一緒になる覚悟があるかどうかがテーマですよね。日常にない世界だから女性は“純愛もの”が好きなんだと思います」

富樫「だんだん時姫がチェ・ジウに思えてきたかも…」

久保「時姫の所作、女性らしくてきれいでしたね。ああいう美しい動きをかつての日本人はしていたんだなと思えただけでも、観てよかった」

富樫「あの奥ゆかしい感じも韓流風味じゃないですか?」

久保「奥ゆかしい女性は見ていて素敵です。同性でも惹かれてしまいますよね。あと途中で、時姫を連れて帰ろうとする北條方の武士が登場したでしょ? 無事連れて帰ったら彼女と結婚できるという。主人公のライバルが必ず登場して、ハラハラさせるところも韓流っぽい」

 浄瑠璃を原作にした「丸本物」と呼ばれる義太夫狂言は骨太な印象があり、女性は特にとっつきにくいのでは、と私は勝手に思っていました。ところが久保さんがおっしゃる通りストーリーに入り込めば、描かれているのはまさに究極の純愛ドラマ!今だと、まさに韓流です。純粋で先入観のない久保さんの目線は、義太夫狂言のハードルを一気に下げてくれました。女性の感客らしい発見です!

富樫佳織の感客道

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