歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



   

説明がないからこそ、感じること

富樫「型って、現代の私たちの生活にはない台詞や動きですよね。なのに心が伝わるし、初めて観ても感情のスイッチが押されるから不思議です」

川俣「歌舞伎は芝居の最初から最後まで全てが型ですから、型を演じていることや観ていることに違和感がないんですよ。例えば漫画を読む時、それぞれの場面が四角いコマに入っているとは意識しませんよね」

富樫「はい。完全に頭の中は映像になってます」

川俣「それは“漫画はコマで割られているもの”というルールがあるからなんです。いわば型ですよね。歌舞伎も芝居全体が“型”というものの中で作られているから、そのルールで感情を表現されたほうがずしりと伝わるのではないでしょうか」

富樫「現代に比べてどうこうとか邪念を持って観たりせずに、ルールに没入したほうが伝わるし楽しめるということですね…そうか」

川俣「感じることを受け止めればいいと思うんですよね。説明もなくていいと思います。現代美術もよくそう言われますが…『分からない』とか」

富樫「歌舞伎も現代美術もどこか敷居が高いと思われがちですよね」

川俣「だからといって、あまり詳しく説明するとかえって興ざめすることがあるんです。興味があれば『分からないけど見てみよう』『分からないけど面白かった』と感じるだろうし、観客の側に見方がゆだねられるんですよね」

富樫「現代美術を見る時、歌舞伎を見る時と同じような感覚を覚えることがあります。目の前に見ている作品とは全くかけ離れた個人的な記憶を思い出したりだとか」

川俣「歌舞伎の場合は型というものがとても大事で、その型の中に俳優それぞれの表現や細かい感情のひだが息づいていますよね。現代美術の場合は型というよりもね、型からどのくらい外れていくか、外れていくことで違うことが見えないかというところから作品が生まれるんです」

富樫「以前、歌舞伎俳優のかたに『型が身についていなければ、型をはずすこともできない』というお話を伺って、なるほどと思ったのですが」

川俣「その通りだと思います。型が重要だからこそ、外すという挑戦ができる。そこから新しい発見や娯楽性が生まれるからこそ、歌舞伎は400年以上も続いてきたのではないでしょうか」

 現代美術は「型」そのものを疑問視するところから生まれる表現だと川俣さんはおっしゃいます。作品は美術作家をとりまく社会や人間の感情、そして美術そのものといった様々な「型」を見直すことなのだと。

富樫佳織の感客道

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