歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



『小野道風青柳硯』(※1)
宝暦4年(1754年)に大坂竹本座で初演された全五段の時代浄瑠璃で、歌舞伎には翌5年に移されて上演された。舞台は平安時代。今回上演された場面は、才能を妬まれ流罪となった能書家・小野篁の御家再建を担う彼の遺児・小野道風が柳に飛びつく蛙を見て悟りを開く場面を描いている。

「六方」(※2)
歌舞伎の演技・演出用語。俳優が揚幕に向って引っ込む時に見せる歩き方を言う。『勧進帳』で弁慶が見せる「飛び六方」や『義経千本桜』で狐忠信が見せる「狐六方」など演目により様々な型がある。

photo(C)www.leovanderkleij.com

『ワーキング・プログレス・ウォークウェイ』(オランダ・アルクマー、1996、97)オランダの町外れにある病院からの依頼で行なわれたプロジェクト。患者のリハビリを目的とした共同作業として、遊歩道を作り始める。参加も進め方も自由で完結するため、目的を定めず進行することを重要とした。

 

歌舞伎は通路である

 展覧会の会場では川俣さんが様々なゲストと「○○は通路である」というテーマでトークするイベントも行われています。そこで質問してみました。

富樫「歌舞伎も通路である!かな、と思いました。400年という時間の中で、形なき芸が人から人へ伝承されているところが」

川俣「それもそうだし、単純に考えても花道から俳優が出てきて花道に戻っていくというのが『通路』ですよね」

富樫「そうですね。通路で芝居をしてまた戻っているとも考えられる」

川俣「歌舞伎は通路の中でいろいろな出来事が起きているという感じかもしれません。それを僕ら観客がちょっと下の客席から見ている面白さがありますね」

富樫「感覚としては通路の中にも入れるし、外で観ていることもできますね」

川俣「花道から出たり戻ったりという動きがあるから、俳優の歩き方もかっこいいし華がありますよね。『小野道風青柳硯』(※1)で俳優さんが型を決めながら花道を戻っていったけど…」

富樫「六方ですね(※2)。歩く仕草を様式化した演出です」

川俣「とても華麗な幕引きでしたね。かっこいい登場とか、かっこいい終わり方が考えられているんだなと思いました」

富樫「歌舞伎は劇場で過ごす時間が現代の感覚にしては長いのですが…その時間を過ごす感覚も通路に例えられますか?」

川俣「江戸時代は午前中から日の入りまでずっと劇場で楽しめたんですよね。芝居を見て盛り上がったかと思えばお弁当を食べる時間もあったり、用事で出たり入ったりしている間も芝居が続いていくのは通路ですね」

 通路とは、ある場所と場所を結ぶ中間領域であり、何かが起こり、人が行き交う場所でもある。美術作家がいて観客が集まり、計算していなかった新しい何かが誕生する場所。『通路』は、川俣さんご自身が30年間の仕事を再解釈する中で出てきたキーワードだと言います。

 それはまさに俳優と観客が同居し接触しながら、芝居を生み出していく劇場の賑わいや猥雑さに似ていると感じます。

富樫佳織の感客道

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