歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



脱力系、の心地よさ

 東京都現代美術館で開催されている川俣正さんの展覧会の会場に足を運ぶと、「美術展は絵画が壁に飾られているもの」というイメージがガラリと変わるかもしれません。川俣さんが美術作家として活動してきた30年間の作品、現在、そして未来の作品が次々と目の前に現れる展覧会のテーマは『通路』。美術館の在り方を再解釈したい、という想いから生まれました。

 会場にあるのはタイトルの通り、大きなベニヤ板の通路です。そして通路のところどころに川俣さんの過去の作品があったり、6畳ほどのスペースでまさに新しい作品が制作されていたり、観客がポートレイトを描いて飾るスペースもあります。毎日姿を変えていく空間こそが作品なのです。

 そこには劇場に似た臨場感と、他の観客を観る楽しさがあります。

川俣「『“脱力系”のアート』だねって最近言われました(笑)。力が抜けているというのかな、決して制作する側が力を抜いているわけではないですけど」

富樫「お行儀よくきっちりしなくていい感じが心地いいですね。観客が観客を観るというのも楽しかったです」

川俣「歌舞伎も、いい意味で“脱力系”なのかもしれませんね。今日は満席でしたけど、その中には俳優や芝居を観たい人もいれば、会場の雰囲気が好きで来ている人もいるかもしれない。お土産を買うのが楽しみな人とかね。こうしなければならない、というのがない」

富樫「江戸時代の劇場を描いた錦絵を見ると客席から役者に熱い視線を送っている観客もいれば、隣の人とおしゃべりしている人もいて…自由で心地よさそうなんです。まさに脱力系です。西欧の美術館でもその雰囲気を感じますが」

川俣「ソファーで寝ている人とかよく見かけるよね(笑)」

富樫「いいのそれで?って思いますよ(笑)。全然敷居が高くない(笑)」

川俣「美術館のありかたが西洋は自然体なんですよね。アートを気位の高いものだととらえていなくて、日常生活の延長にあるもの、映画館のように気が向いたら入れる場所のように考えていると思います」

富樫「川俣さんの展覧会は、いろいろな作品があって、いろいろなことが起こっていて“観賞する”というより“一緒に楽しむ”空間だと思いました」

川俣「今回は30年間の作品を“飾って観賞する”のではなく、今までもこれからも通路を進むように作品が生まれる過程や活動を見てほしかったんです。会場に行くと必ず何かが起こっているという“生きた展覧会”を目指しました。観客が作品に参加するって、なかなかできませんよね」

 

川俣正展覧会『通路』
2008年2月9日〜4月13日まで
東京都現代美術館で開催

photo©ANZAΪ

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一陽斎歌川豊国画「芝居大繁昌之図」国立国会図書館蔵(禁無断転載)

 

富樫佳織の感客道

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