歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



(※1)『一谷嫩軍記』「陣門・組打」
宝暦元年(1751年)大坂豊竹座で全五段の時代浄瑠璃として初演。歌舞伎には翌年移された。「陣門・組打」は「平家物語」の「敦盛最期」を巧みに脚色した作品。戦で敵方となってしまったかつての主を討つこととなった熊谷直実は、忠義のため息子を敦盛と入れ替える大胆な策に出て…。

 

職業柄、お笑いに重ねて観てしまいます

 濱口優さんは劇場に入るやいなや「客席は何階までですか?」「お客さん何人くらい入るんですか?」と上演環境がとても気になる様子。

 一緒に拝見したのは義太夫狂言の名作『一谷嫩軍記』の「陣門・組打」(※1)、舞踊『女伊達』、そして華やかな上方歌舞伎を代表する『廓文章』「吉田屋」です。今回が正真正銘の歌舞伎デビュー!いきなりの義太夫狂言ですが、あえてイヤホンガイドも解説もなしで舞台を楽しんでいただきました。

 濱口さんの初歌舞伎…舞台を観る表情は、そうとう真剣です。

濱口「どういうストーリーなんやろ、ってすごい必死に観てたんですよ。しかも最初、ふたりの登場人物を逆にとらえてて(笑)。途中で筋書きを見て、あ!そうやったんか!って理解して、また舞台観るという」

富樫「初めてご覧になった印象は?」

濱口「もっと分かりにくいのかなとか、退屈なのかなというイメージもあったんですけど、覆されました。笑えるところもいっぱいあったし」

富樫「戦国ものは設定がもう、今とかけ離れてますからね」

濱口「その前に歌舞伎の劇場自体がすごいですよね。銀座のド真ん中にこういう建物があって、中に入ると立派な花道があって、もういきなり現実からボーンと外されるんですよ。笑いでいったらこの舞台装置と空気だけで、もうつかみは完全にオッケーなんですよね(笑)。で、花道を突然、鎧着て馬に乗った人が走ってくるし」

富樫「(笑)。びっくりしますよねえ」

濱口「その前に、武士が大勢わーっと走ってきて一列に並んだじゃないですか。ひとりずつ一言しゃべって。あれも面白い。最後の人は何言うんやろ、何言うんやろって期待してしまうんですよね。職業柄なんでしょうね」

富樫「まさかオチはつかないよね…と思いつつもね。習性で」

濱口「僕らはドリフを観て育っているから、そこに期待しますよね。あと、誰が志村さんのポジションなんだろうとか考えてしまう(笑)。皆が出て来て一列に並ぶ芝居って小さい頃からドリフで観てたけど、歌舞伎の時代からあったのか!と思ったら感動的でしたね」

富樫「お仕事柄、コントで使えるという目で観ていた場面もあったのでは?」

濱口「考えますよねー、どうしても。あの武士がたくさん出てきて並んだ時はまさに『これは使える!』って思いましたもん(笑)。あとは白塗り。白塗りの人が普通に立ってたら、どうなるやろ?とかね。長刀とか刀とか持って」

富樫「(爆笑)。たけちゃんマンも白塗りですね、よく考えたら」

濱口「『一谷嫩軍記』で、ふたりの武士が馬に乗ったまま沖に出ていって小さく見えるところを子供が演じてたでしょ?あれもすごいと思いましたよ。『おー!遠くなったで』って。子供が観ても分かって、クスっとなる。そういうのはね、ものすごく大事です」

 

富樫佳織の感客道

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