歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



(※2)『新世紀エヴァンゲリオン』
南極で発生したセカンドインパクトと呼ばれる大災害後の地球を舞台に、人類を襲う使徒と呼ばれる敵との闘いを描く。物語中には多くの謎が散りばめられ熱狂的なファンを生んだ1990年代を代表するアニメ作品。庵野秀明監督。

(※3)『スター・ウォーズエピソード1』
スター・ウォーズシリーズの中で4番目に発表された作品で、前3作に登場するダース・ベイダーの少年時代が描かれている。前作から16年ぶり、そして一斉を風靡した名作のルーツを解くストーリーは大きな話題となった。

 

わかった!という嬉しさが楽しい

濱口「日本人は難解なものをあえて観るという楽しみ方も好きですよね。想像したり理解したりしながら。『エヴァンゲリオン』(※2)が流行った時はストーリーの中に秘密が隠されていて、それを皆が想像して意見を交換して盛り上がったり、監督が取材で言った言葉すら『ヒントや!』って劇場に行って『あれがそうだった!』って喜んで観てたじゃないですか」

富樫「ゲームもそうですよね。ここに秘密アイテムが隠されてますよ、とか」

濱口「だから今日の芝居の全部のストーリーを理解して『ここで切られた首はその後こうなるんだって』って皆に話すと『なるほど!』と盛り上がるとともに『あー!聞かなきゃよかった』という人も出てくるわけですよ」

 『一谷嫩軍記』の「陣門・組打」は、須磨浦陣門に熊谷直実の息子・小次郎が駆けつけるところから始まります。敵同士となってしまったかつての主を救うため、熊谷はここで息子と平敦盛を入れ替えるのです。場面が変わり須磨浦。熊谷は、源氏方を勝利に導くため敦盛に扮した息子の首を討ち取ります。忠義のために息子を手にかける父の悲哀は次の段『熊谷陣屋』の主題となります。

富樫「『熊谷陣屋』ばかり何度も観ているので、知っているストーリーの全段を観るのは不思議な感じでした」

濱口「それはスターウォーズのつながりかたと一緒じゃないですか」

富樫「そうか!『熊谷陣屋』に対して『組打』は『エピソード・1』(※3)なんだ」

濱口「後から前段を観て、『そうか、ここにつながっていくんだ』って発見する楽しみが一緒ですよね」

富樫「そうかあ…。まさにその通りですね」

濱口「だから話をある程度知っていて観るとさらに面白いんですよね。繋がる部分を切って貼って、切って貼って、自分でパズルを組み立てるように観ていける楽しさがある。いろいろな見方や楽しみ方ができるものって、やっぱり強いですよね」

 初めて歌舞伎を観た濱口さんは筋書を観て話や台詞を確認しながら、つまり“答え合わせ”しながら舞台を観るのが楽しかったと言います。

濱口「『あ!ここに書いている台詞を今言った』とか、『ここに書いてあるシーンに来た!』とか書いてる通りになることが嬉しいんですよ。筋書きにヒントや答えがあって、それを合わせていくうちにどんどん惹き込まれて面白くなりました」

 『答え合わせをしながら観る』。それによって舞台と自分との距離を縮めていく。新たな感客道、ひとついただきました。

富樫佳織の感客道

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