歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



   

意図を感じさせないという、意図

 歌舞伎の大道具は現代劇に比べやはり時代がかっているし、いい意味で「過剰」だと私は思っていました。ところがアートディレクターの副田高行さんは、そこにも「空」を見つけていました。

副田「『高野聖』は装置に描かれた深い山河が回転して、目の前の人が奥へ奥へと分け入って行くダイナミックな場面がありましたよね。観ている間はそれが板に描かれた偽物の岩だとか木とか思わせない。有名な人が描いた大道具だからすごいというのでもない。作り手の気配を感じさせない表現なんです」

富樫「意図を感じさせないのも『空』なんですね。確かに、あれを書割と見てしまうと、かなりすれすれな感じですよね(笑)。そういう意味では、見る側の想像力にゆだねられているところも大きいですよね」

副田「観る側に想像する余白を残す、というのも表現の手法のひとつです。見た瞬間、完全に分かってしまうものに人は感情移入できないんです。ある部分は受け手に投げて、見た人がどう感じたかで完成するのが素敵な表現なんですよね」

富樫「『夜叉ケ池』の最後の場面で「大津波」のシーンがありましたが、副田さん、感心していましたね」

副田「波の模様を描いた布を持った俳優さんたちが動いて大波を表現していたでしょ。あれはすごい。舞台だと本物の水は使えないし、どうやるのかな?と思って見ていたのですが、布が目の前をひらめくだけで本物の大波以上の迫力が出るんですよね。人間の想像力に訴える方法が、シンプルで強いと思いました」

富樫佳織の感客道

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