
時代物と世話物
歌舞伎の古典演目は大きく分けて「時代物」と「世話物」に分類されます。
「時代物」というのは、設定を江戸時代よりも古い時代にして、主に武家社会を描いたものです。扱う時代は、室町・鎌倉・平安時代、時にはそれ以前にまでさかのぼります。
人物では、曾我兄弟、源義経が大変多くの作品に登場し、当時の人たちにとって格段のヒーローであったことがうかがえます。どちらも十二世紀後半の人物ですから、江戸の人たちからは500年位前のお話ということになります。それを江戸の風俗の中で描いてみせる自由奔放さが歌舞伎の面白いところでしょう。
登場人物は、歴史上知られている人物名をそのまま踏襲することが多いのですが、江戸時代においては、江戸時代やそれに近い時代の武家社会におこった事件や実名は、御上の目が厳しく、「織田信長」を「小田春永(おだはるなが)」、「明智光秀」を「武智光秀(たけちみつひで)」に変えたり、元禄の出来事を題材にした「忠臣蔵」は、時代を足利時代に置き換え、「大石内蔵助」を「大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)」と変えて法の目をくぐってきました。
一方、「世話物」というのは江戸時代の人たちにとっては"現代劇"で、町人社会・世相風俗を扱ったもの、町のどこにでもいる大工や魚屋、侠客や遊女、長屋の衆など様々な人たちが登場します。
こちらもすべてフィクションということになっていますが、観客の要望も強かったのでしょう、世間を騒がせた心中事件などを巧みに劇化する事も次第に増えていきました。
明治期に入ると時代物のあり方も見直されて史実・時代考証に則った作品が求められるようになりました。これを「活歴(かつれき)物」と呼び、主に九代目團十郎が中心となって推進しましたが、作品の多くは観客の支持を得ることが出来ませんでした。
また世話物も、散切頭や洋装といった明治期の新風俗を盛り込んだ「散切物」が登場、人気作者・河竹黙阿弥も優れた作を残しています。
さらに明治の中期以降は、それまでの座付き作者ではなく劇文学としての戯曲作家が台頭し、坪内逍遥をはじめ、岡本綺堂、真山青果といった作家が次々と輩出され「新歌舞伎」と呼ばれる作品群が確立して行きます。
またさらに近年の歌舞伎作品は、「新作」あるいは「新作歌舞伎」と呼ばれています。(K)
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