十種香
『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』"十種香の場"幕開きでは、許婚の武田勝頼が死んでしまったと思い込んだ八重垣姫が、勝頼の絵姿に向かい、香を焚いています。おそらく姫は、非業の死ゆえに表立っては供養もできない勝頼のために、手元にある香道具で回向の真似事をしているのでしょう。実際に香炉にくべられた香が客席に漂います。
仏教とともに日本に伝来したと思われる香は、平安時代、宗教や儀式のために用いられるだけでなく、貴族、のちには武家の生活の中でも発達していきます。
髪や衣服に焚きしめたり、部屋で芳香を漂わせるばかりでなく、作法に従い薫物(たきもの。調合した香)を聞きわけ(香はかぐとは言わず、"聞く"という言葉を使います)、何を焚いたのか種類をあてる≪組香(くみこう)≫も盛んに行われました。
薫物には、その香りのイメージに合う名前が古典文学や漢詩からとってつけられるので、教養も問われる高度なゲームでした。
現在も、この香を扱う作法や、組香などの遊びかたが "香道"として伝わっています。
場面の名前となっている≪十種香≫というのは、栴檀(せんだん)・沈水(じんすい)・蘇合(そごう)・薫陸(くんろく)・鬱金(うこん)・青木(せいぼく)・白膠(はっこう)・零陵(れいりょう)・甘松(かんしょう)・鶏舌(けいぜつ)という十種類の香木を調合したものです。
香道の用語では「十種香」を「じしゅこう」と読むそうです。
またこれは余談ですが、同じ≪十種香≫という名前の組香もあります。四種類の香包(三種類は各三包、一種類は一包、計十包)を用意し、三包ある三種類の香をまず香の名前を知らせてから焚き、残る七包の名前を伏せて焚きその名前を順に当てていきます。流派によっては≪十炷香≫ともいうそうです。※
(み)
※ 炷の字のよみは「チュウ」だが香道では「シュ」と読む。
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