蘭奢待
らんじゃたい
『加賀見山旧錦絵』のなかで、<旭の尊像>とともにお家騒動のアイテムとして使われる<蘭奢待>。
実は歴史上にもたびたび登場する超国宝級の香木です。本邦最高の名香とされ、『仮名手本忠臣蔵』の<大序>にも"新田義貞の兜にたきしめた香"としてその名を見せています。
奈良の正倉院には、長さ156センチメートル、最大径40余センチメートル、重量11.6キログラムもある沈香の香木が秘蔵されています。
この香木には『黄熟香(おうじゅくこう)』という名前がついています。<蘭奢待>というのは、東大寺の正倉(正倉院)に保管されているので、"東大寺"という三文字を含ませた『黄熟香』の雅名といわれています。※
9~10世紀ごろ日本に伝来したと思われるこの巨大な香木は、天皇の許可なくしては持ち出すことはおろか、見ることもかなわぬ御物、本来ならば歌舞伎にその名を見せるはずもなく、ましてや"兜に焚き染める"などはもっての他という超弩級のお宝なのです。
しかしこの<蘭奢待>を、部分的に切り取った人物が何人かいました。よく知られているのは、足利義政(あしかがよしまさ)、織田信長、明治天皇です。この三人が切り取った跡のほかにも切り取り跡はいくつもあるそうです。
秘蔵の香木としての魅力もさりながら、誰も手をつけられないはずの宝物を切取るという行為に大きな意味があったことは明白でしょう。(み)
※"蘭"に"東"。"奢"に"大"。"待"に"寺"。
歌舞伎 今日のことば
バックナンバー
-
「蘭奢待」
-
「実盛の白髪染め」
-
「鎧櫃の”前”」
-
「大口」
-
「かんかんのう」
-
「酒呑童子」
-
「江戸のリサイクル」
-
「首実検の扇」
-
「伽羅」
-
「高野聖」
-
「小幡小平次」
-
「六代被斬」
-
「国崩し」
-
「勘亭流」
-
「公平」
-
「東海道四谷怪談」
-
「魚づくし」
-
「善玉悪玉」
-
「旗本奴」
-
「丁半ばくち」
-
「十種香」
-
「伊勢物語」
-
「草薙剣」
-
「紙衣(紙子)」
-
「平敦盛」
-
「三輪山伝説」
-
「道成寺」
-
「青海苔と太神楽」
-
「見立」
-
「三筆・三蹟」
-
「獅子と牡丹」
-
「寺子屋」
-
「水天宮」
-
「お数寄屋坊主」
-
「赤姫」
-
「虚無僧 その2」
-
「虚無僧 その1」
-
「絵看板」
-
「すし屋」
-
「だんまり」
-
「太郎冠者」
-
「屋体」
-
「鬘と床山」
-
「三遊亭円朝」
-
「道成寺もの」
-
「羽衣伝説」
-
「下座音楽」
-
「消え物」
-
「表方と裏方」
-
「在原行平」
-
「秀山十種」
-
「熊谷直実」
-
「夏芝居」
-
「定式幕」
-
「伊達騒動」
-
「朝倉義景」
-
「大薩摩節 その5」
-
「大薩摩節 その4」
-
「大薩摩節 その3」
-
「大薩摩節 その2」
-
「大薩摩節 その1」
-
「時代物と世話物」
-
「シェイクスピア」
-
「松羽目物」
-
「少年俳優」
-
「板付」
-
「ツケ」
-
「大道具と小道具」
-
「俠客」
-
「大名火消」
-
「閻魔と政頼」
-
「浅葱幕」
-
「玄冶店」
-
「江戸の火消」
-
「苧環」
-
「天覧歌舞伎」
-
「揚幕」
-
「拍子舞」
-
「香盤」
-
「仙人の堕落」
-
「ヒーローからヒロインに」
-
「かけすじ」
-
「一幕見」
-
「曾我物の舞踊」
-
「大前髪」
-
「虎の巻」
-
「名題と外題」
-
「土佐派&狩野派」
-
「襲名」
-
「この世のなごり 夜もなごり」
-
「知盛」
-
「幕間」
-
「佐藤継信・忠信兄弟」
-
「権太」
-
「柝」
-
「黒衣」
-
「並木正三 その4」
-
「並木正三 その3」
-
「並木正三 その2」
-
「並木正三 その1」
-
「独参湯」
-
「天狗」
-
「花道」
-
「落窪物語」
-
「屋号」
-
「千穐楽」
-
「見得」
-
「顔世御前」
-
「義経の家来」
-
「山科閑居」
-
「切口上」
-
「岡村柿紅」
-
「鹿ケ谷」
-
「差金」
-
「曾我物」
-
「しゃべり」
-
「川連法眼」
-
「猿若」
-
「戸隠伝説」
-
「玉本小新」
-
「招き看板」