伊達騒動
江戸時代、大名家で起こった家督、主導権争いをお家騒動と呼びます。歌舞伎では、たびたび狂言の題材にとりあげられ、≪お家物≫≪お家狂言≫というジャンルになっています。
『小笠原諸礼忠孝(おがさわらしょれいのおくのて)』(小笠原騒動)、『加賀見山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)』(加賀騒動)、『黒白論織分博多(こくびゃくおりわけはかた)』(黒田騒動)などいくつもある≪お家物≫の中でも一番有名なのは、『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』『実録先代萩(じつろくせんだいはぎ)』『裏表先代萩(うらおもてせんだいはぎ)』など仙台藩六十二万石の伊達騒動をあつかった狂言でしょう。
万治3年(1660年)、伊達家三代目藩主伊達綱宗(だてつなむね)は21歳と言う若さで放蕩三昧を理由に幕府より強制的に隠居させられ、2歳の長男・綱村(つなむら 幼名:亀千代丸)が家督を継ぎます。後見役についた綱村の大叔父に当たる伊達宗勝(だてむねかつ)が、家老・原田甲斐(はらだかい)とともに藩権力の集権化をすすめますが、それに反対する伊達氏一門や伊達安芸(だてあき)と対立することになります。
寛文11年(1671年)、伊達安芸が所領争いにからめこの問題を幕府に上訴し、その裁判のため大老・酒井忠清(さかいただきよ)邸に関係者が召還されたところ、原田甲斐が伊達安芸を斬殺、切りかかった甲斐も安芸派の柴田外記(しばたげき)に斬られ、主だった人物が全員死亡...、というのが伊達騒動の概略です。
刃傷事件の結果、主要人物がほとんど死亡してしまい仙台藩の内紛は迷宮入りとなりました。原田家や宗勝は罰せられましたが、仙台藩自体にはおとがめなく、六十二万石は持続されることとなりました。歌舞伎では、仁木弾正(原田甲斐)は"お家乗っ取りをたくらむ悪人"となっていますが、実は、外様の大大名の伊達家の勢力を削ごうとした幕府側の陰謀を未然に防いだのだとする見方もあります※。
幼い主君を守護する乳母・政岡(『実録先代萩』では浅岡)のモデルは、綱村の実母で綱宗の側室三沢初子といわれています。目黒の正覚寺に帰依し、本堂などを自分の邸宅を寄進して建てたといわれ、境内には銅像が建てられています。(み)
※山本周五郎著『樅の木は残った』
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